所謂「奇書」と呼ばれるものを紹介した本になります。
著者の三崎律日氏は、元々ニコニコ動画やYouTubeに、
奇書の紹介を投稿されてこられた奇書の研究家です。
現在も、動画投稿サイトには、氏の作品が上がっております。
本書は、その動画に加筆修正をして書籍化した、
言わば完全版というべき書籍となっています。
書籍紹介23冊目
個人的おすすめ度 ★★★★★
文章の読みやすさ ★★★★★
内容の理解し易さ ★★★★☆
奇書とは
いわゆる奇書とは、一般的に、
奇抜なアイディアや奇怪で奇妙な不思議な文学、
といったニュアンスが強い書物を指すことが多いです。
日本に於いては、以下に挙げる
夢野久作 「ドグラ・マグラ」
小栗虫太郎 「黒死館殺人事件」
中井英夫 「虚無への供物」
が日本三大奇書として有名です。
しかし、本書ではこれらの作品は扱っておりません。
その理由について、著者の三崎氏は以下のように仰っております。
世間で「奇書」とされる本の多くは、作者自身が「奇書たるべし」として書き上げたものです。
中略
私はむしろ、狙って「奇書」としては書かれていない書物に興味をくすぐられます。
奇書の世界史「はじめに」より引用
つまり、奇書とされるものには2種類あり、
・そもそも奇書として生み出された、ある種の故意犯的な思惑で作出された作品
・書かれた時代に於いては「名著」として存在していたが、
時代が変わるとともに「名著→奇書」へと評価が変わった作品
があるとしております。
本書の著者は、後者の「名著→奇書」に興味を抱き、
そういった書物を多数研究し、それを紹介・解説したものが本書となります。
奇書で巡る世界史
先述した通り、本書で紹介されているのは、かつては「奇書」とは認識されていなかった、
むしろ中には「良書」とさえいわれていた程の書物を紹介しております。
これは即ち、その当時の時代背景を探る上での立派なヒントとなり得ます。
当時の人々の思想や考え方を知り、何故、どのようにしてこの本が世に出たのか、
何故当時の人々に支持されたのか、その答えを本書では紐解いていきます。
本書でも紹介されている「魔女に与える鉄槌」なんて、
まさに魔女狩りの歴史を考察する上で、非常に勉強になります。
歴史の教科書では教えてくれない時代背景の細部を、
奇書というフィルターを通して覗き見るという新しいアプローチを開発した、
初の書籍が本書「奇書の世界史」ではないでしょうか。
勿論、歴史の勉強という堅苦しいものばかりではなく、
未知のものへの探求心をくすぐられる側面もあります。
私(筆者)は、「ヴォイニッチ手稿」という、未だ未解読の文字群で構成された書物に、
昔から強い関心がありました。
世界中のマニアや専門家、暗号解読家などが解読を試みてきましたが、
今現在に至るまで、誰も解読には成功していません。
「解読したら世界がひっくり返るのではないか!?」という
中二心を刺激されるようなオカルティックな期待から、
「ただのイタズラで作られたデタラメ本」という
まあそうだろうな、と冷めた大人の現実的な諦めまで、
様々な憶測が今も飛び交う、世界で一番有名な未解読本ですが、
本書には、ヴォイニッチ手稿の発見から現代の研究まで、
この本を取り巻く環境を解説しております。
実は、私が著者の三崎氏を知るきっかけになったのも、
このヴォイニッチ手稿を調べている時でした(笑)
おわりに
三崎氏の文体は柔らかく、また非常にわかりやすくまとめられているため、
一言で言えばとても読みやすいです。
また同時に語彙力が非常に豊富であり、博識で好印象を持ちます。
本書は、奇書の持つ妖しくも耽美的な魅力を読者に与えつつ、
書かれた時代背景、作者の生い立ち等々、
奇書が織り成す数奇な物語を教えてくれる稀有な書籍です。
本好き、歴史好き、未知なるものが好きという全ての方に、
是非お勧めしたい一冊です。
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